「この仕事、〇〇さんしか分からないから」 「急に休まれたら、うちの部署は回らないよ」
頼られているようで、少しだけ誇らしい。 もし、あなたがそう感じているなら、それは非常に危険なサインかもしれません。
「属人化」──それは、“特定の人しか業務の進め方を知らない状態”を指す言葉。一見、あなたの専門性が高いことの証明のように思えますが、その実態は、あなた自身とチームの双方を、いつ破裂するかわからない「リスク」という名の時限爆弾に縛り付けている状態なのです。
この記事は、「頼られる自分」に少しの負担と不安を感じ始めている、あなたのための実践ガイドです。
- なぜ「あなたしかできない仕事」が、あなたにとっても会社にとってもリスクなのかがわかります。
- 誰が読んでも理解・実行できる「最強の引き継ぎ資料」を作成するための、具体的な型が身につきます。
- 作成した資料を「チームの資産」として育てていくための、具体的な運用方法と便利ツールがわかります。
「あなたしかできない仕事」が、あなたを不幸にする3つの理由
なぜ、専門家として頼られる「属人化」が、危険なのでしょうか。それは、個人と組織の両方に、深刻なデメリットをもたらすからです。
1. あなたが「休めない・異動できない」
「自分がいないと仕事が回らない」という状況は、責任感の強いあなたに、有給休暇の取得や長期休暇をためらわせます。
また、新しい仕事に挑戦したくても、「引き継ぎができないから」という理由で、キャリアアップの機会を逃してしまうことにも繋がりかねません。
2. チームの「成長が止まる」
ノウハウが一人の人間に集中すると、チーム全体の業務レベルが向上しません。他のメンバーはいつまでもその業務を覚えられず、組織としての対応力は低下。結果として、簡単な作業ですら、常に特定の人物を待たなければならない、非効率なチームになってしまいます。
3. 会社の「ノウハウが失われる」
もし、あなたが突然退職や休職をすることになったら?会社にとっては、その業務に関する貴重な知識やノウハウが一瞬で失われることを意味します。これは、事業継続における非常に大きな経営リスクです。
「あなたしかできない」は、もはや称賛の言葉ではありません。それは、あなたとチームを蝕む、解決すべき「課題」なのです。
【保存版】“未来の自分”と“初めての人”を助ける引き継ぎ資料の作り方
では、どうすれば属人化を解消できるのか。その答えが「誰が読んでも再現できる、引き継ぎ資料の作成」です。ここでは、その資料に盛り込むべき項目を、「5W1H」のフレームワークで解説します。
【Why】なぜ、この業務は必要なのか?(目的・背景)
- その作業が、最終的に誰の、何の役に立っているのかを記載します。
- 記載例: 「この月次報告書は、部長が経営会議で発表する資料の元データとなるため、正確性が最も重要です」
【When】いつ、どのタイミングでやるのか?(実施時期・頻度)
- 具体的な日時や頻度、締め切りを明記します。
- 記載例: 「毎月、第3営業日の15時までに作成し、〇〇部長へ提出」
【Where】どこで、どのファイルを使うのか?(保存場所・ツール)
- 使用するファイル名、保存先のフォルダパス、利用するシステムやツールの名前を正確に記載します。
- 記載例:
使用ファイル:Sドライブ > 営業部 > 01_報告書 >【月次報告書フォーマット.xlsx】
【Who】誰が、誰と連携するのか?(担当・関係者)
- この業務の主担当者、連携する他部署の担当者、承認者などを明確にします。
- 記載例:
作成担当:〇〇データ提供元:経理部 △△さん最終承認者:□□部長
【What】何を、どういう順番で行うのか?(具体的な手順)
- 業務のプロセスを、番号付きで、時系列に沿って書き出します。
- ポイント: ここでは「1手順=1画像」を徹底しましょう。PC操作のスクリーンショットを貼り付け、「①ここをクリック」「②〇〇と入力」のように矢印や囲みを加えるだけで、マニュアルの分かりやすさは劇的に向上します。
【How】もし問題が起きたら、どうするか?(トラブルシューティング)
- 過去に起きたトラブルや、よくある質問とその対処法を記載しておきます。
- 記載例:
Q. 参照データが更新されていない場合は?A. 経理部の△△さんに、データの更新を依頼してください。
作って終わりはNG。「生きたマニュアル」を育てるための運用術
完璧な引き継ぎ資料も、更新されず、誰にも読まれなければ意味がありません。作成した資料を「チームの資産」として活用し続けるための、具体的な運用方法をご紹介します。
1. 保管場所は「1つのクラウド」に。URLで共有する文化を
作成した資料は、必ずチーム全員がアクセスできるクラウド上の特定フォルダ(例:Google Drive, SharePointなど)に保管しましょう。
そして、「あの資料どこ?」と聞かれたら、ファイルを添付するのではなく、「ここに最新版があります」とURLを送る習慣をつけます。これにより、バージョン違いのファイルが拡散するのを防げます。
2.「最終更新日」と「更新担当者」を必ず明記する
業務手順は、日々変化します。資料のフッターなどに、「最終更新日:2025/06/13 更新者:田中」と必ず明記するルールを設けましょう。
これにより、読み手はその情報が信頼できるかどうかを一目で判断できます。また、「手順に変更があった場合は、必ずマニュアルも修正する」というチームルールを徹底することが重要です。
さらに便利なツールで、マニュアルを「育てる」
WordやExcelでのマニュアル作成も有効ですが、チームでの情報共有やナレッジの蓄積には、それに特化したツールの活用が非常に効果的です。
- おすすめの考え方:ナレッジマネジメントツール これらのツールは、単なる文書作成に留まらず、チーム内の知識や議事録、ノウハウといった「見えない資産」を一箇所に集約し、育てていくことを目的としています。代表的なツールとして
Confluenceなどがあります。
組織が持つ知識やノウハウを収集・整理・共有し、最大限に活用する経営手法です。
個人の経験に頼る「暗黙知」を、誰もが利用できる「形式知」としてナレッジベースに蓄積することで、業務の属人化を防止。
組織全体の生産性向上、イノベーション創出、迅速な意思決定を支援し、企業の競争力を高めることを目的とします。
参考リンク: ナレッジ マネジメントとは? – Atlassian
まとめ|“手放す勇気”が、あなたとチームを成長させる
「自分にしかできない仕事」を手放すことには、少しの寂しさが伴うかもしれません。 しかしそれは、あなたが「一人のプレイヤー」から、チーム全体に貢献する「仕組みの設計者」へと進化する、成長の証なのです。
マニュアル作成は、面倒な雑務ではありません。 それは、あなた自身を単純作業から解放し、より付加価値の高い仕事へとシフトさせるための、最も賢明な戦略です。
まずは、あなたが一番よく「これ、どうやるんですか?」と聞かれる業務について、その手順を5つだけ、箇条書きにしてみることから始めてみませんか?



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